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俺は、前向きな男だ。後ろ向きなヤツは嫌いだ。
だが、今だけは言っておく。
この事態に陥って、妙に明るい姫子には、腹が立つ。
「だってぇー、仕方がないじゃないですかぁ? もう起きてしまったことなんですよぉ? マコ姉さま、いつも言っているじゃないですかぁ?」
そう。いつもの俺のセリフを、してやったとばかりに連呼する姫子に。
「おまえは、悪魔だから羽でも出せるんだろ? コウモリ系のヤツを。俺は、マネキン人形だぞ? どうやってここから帰ればいいっていうんだ!」
と、叫んだとたん。
ふたつのことが思い浮かんだ。
俺が誠だった頃。
海で女をナンパして、送って帰ってあげたことが。
……ってことは、ナンパされて……。
だ、ダメだ! 気持ち悪すぎる!
じゃあ、矢野に送ってもらう?
俺と矢野は親友同士。昔は、よく矢野のバイクの後ろにも乗った。
大学に入って、車の免許をとって、親の車を乗り回すようになってからは、そんな事もなくなったが。
だ、ダメだ! 今の矢野にはそんなことを頼めるはずがない!
俺は、さすがに前向きになれなかった。
ぶつぶつ考えながらも、とりあえず泳いで、姫子とボール遊びをしている。
「ちくしょー! ニッチもサッチも行かないじゃないか!」
思いっきりボールを投げたら、姫子の顔面に直撃した。
「い、いったーーーーいっ! それって、暴力ですう!」
「悪い、悪い」
俺は、姫子が受け止めそこねたボールをとりに、じゃぼじゃぼと走り出した。
ボールを拾った時、ふとライフセイバーと女性の会話が聞こえた。
「嘘じゃありません! あれは、サメです。見間違いないんです! 子供たちに被害が出ないうちに、海をクローズして調べるべきです!」
「あのですね、奥さん。ここはですね、生態系上サメが存在しない海なんですが……」
「でも見たんです! うちの子が食べられたら、あなた、責任とってくれるんですか!」
どうやら、姫子のスイミングキャップは、この辺りにあるらしい。姫子が聞いたら喜ぶだろう。
俺は、じゃぶじゃぶと水の中を走り……よろっとよろめいた。
「おい! 大丈夫か!」
すっと体が軽くなった。足をとられて転びかけた俺を救ったのは、矢野だった。
腕を引っ張って助け起こしてくれた。
「あ、ありがとう」
お互い腰よりも上まで水につかっている。
「底は砂地だからな。どういった変化があるかわからない。気をつけないと……」
矢野は、やや厳しい顔をして言った。
思い出した。
矢野は、スポーツ万能だけれど泳げないんだ。なかなか水着にならなかったわけも、それだ。
理由は、確か……小学校の時に、一緒に泳いでいて、溺れかけた。砂地に足を取られて、深みにはまった。その時に足がつってしまい、危ないところだった。
たまたま父さんがそれを見ていて、助けたんだけれど、それ以来、矢野は海に行っても、胸より水に浸かる場所には行けないでいる。
ヤツにしては、ちょっとかわいいトラウマだ。
「矢野君って、優しいのね」
俺はちょっとだけ嫌みも込めて、笑顔を見せた。
矢野は、ぽっと顔を染めた。
「バカな。おまえに死なれたら、誠の死も永遠に謎だろ? そうなったら、ヤツは浮かばれないからな」
「あなたみたいな堅物には、私が死んでも死ななくても、謎は永遠に謎!」
俺は、はっきり言ってやった。
だって、俺は何度も真実を話しているぞ!
相手にしているのもばかばかしい。俺は、姫子にジョーズの情報を伝えるために、走り出そうとした。
が。
再びバランスを崩す。
あ? 何か、おかしい?
「おい! 本当に大丈夫なのか?」
矢野が再び俺を支えた。
「大丈夫……」
……じゃない。
俺は冷や汗をかいた。かいたような気がしたというべきか?
マネキンゆえに、起きてしまった体の不調だ。いや、不調というよりは……。
「どうした? 何があった?」
「何がって……」
言えるわけないじゃないか!
左足が、抜けてどこかへ行ったなんて!
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